『鍵孔のない扉』/鮎川哲也

06 23, 2006
4334732992鍵孔のない扉―鬼貫警部事件簿
鮎川 哲也
光文社 2002-04
自己評価

徹頭徹尾、謎に満ちた長編。声楽家で野性的な美貌をもつ久美子と、その夫で伴奏ピアニストをつとめるさえない男・重之。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生した。被害者は久美子の浮気相手と思われる放送作家だった。事件は華やかな芸能界の裏面に展開。犯人確実と目された重之の容疑が晴れると、捜査は混迷の一途を辿る。やがて大胆にも、犯人は第二の殺人を予告してきた。――主任警部・鬼貫は、捜査線上に残った人物のアリバイを崩すため、単身列車に乗りこんだ。
鮎川の魅力を余すことなく堪能できる作品。小道具の使い方は相変わらず巧いし、事件の本質を表したタイトルも面白い。音楽家夫婦の口喧嘩に端を発したストーリーは、様々な人物の思考を経て大きく様変わりし、挑む価値のある完全犯罪となって読者に立ち向かってくる。前半の展開は直線的。着実に前進し、ゆっくりと少しずつ広がり始める。そして全貌が見えかけた時、鮎川お得意の強固なアリバイに行く手を阻まれる。真犯人は非常に頭のよい人物として描かれているが、私はそれを作者の分身のように思い、ひたすら感服して読んでいた。アリバイトリックというものは現実的であるから、可能性を追えばキリがない。そして本作品は、その“キリ”まで追って練り上げてあるのだから、感心するやら呆れるやら。
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