『深海のYrr(イール)』/フランク・シェッツング

09 11, 2008
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フランク・シェッツング
早川書房 2008-04
自己評価
  • 第五位『ミステリが読みたい!』(2009)
  • 第九位『週刊文春ミステリーベスト10』(2008)

ノルウェー海で発見された無数の異様な生物。海洋生物学者ヨハンソンの努力で、その生物が海底で新燃料メタンハイドレートの層を掘り続けていることが判明した。カナダ西岸ではタグボートやホエールウォッチングの船をクジラやオルカの群れが襲い、生物学者アナワクが調査を始める。さらに世界各地で猛毒のクラゲが出現、海難事故が続発し、フランスではロブスターに潜む病原体が猛威を振るう。母なる海に何が起きたのか?
深海とそこに生息する生き物、資源開発から病原菌まで、取材に四年費やしたという内容の豊富さにまず圧倒される。その歳月を前面に押し出すアクの強さはなく、スペシャリストを集めた登場人物にも無理な主張をさせないところは非常に好感がもてた。

このジャンルのストーリーから得る教訓はひとつである。そこに辿り着くまでのプロセスの出来によって、教訓が安っぽく見えたり小難しいと感じたりするのだが、本作品にそのような心配は無用。外堀を埋めてから物語の核心に迫る展開が秀逸なため、ロックオンされたように、教訓は意識化から動かない。

特に大げさな描写をしているわけでもないのに、読めば読むほど深海に対する恐怖感が増すのは何故だろう。陸上で陽の当たらない場所はない。それに対して深海はある意味閉鎖された特殊な場所だ。暗闇と静寂が支配するこの空間そのものが未知であり脅威であるがゆえに、深海から発せられる警告に言いようのない恐れを感じてしまうのだろう。

アメリカ軍司令官を登場させるあたりが、映像化を目論んで書かれた作品だろうと勘繰ってしまうほど、エンタメ性は濃い。しかし日本人用に書き下ろされたわけではないので、万人受けする作品だとも思えない。膨大な薀蓄と慌しい場面展開、世界中の学者の公私におけるエピソードの多さには、忍耐と我慢を要するかもしれない。斜め読みするシーンは多いし、下巻のドタバタぶりは笑うに笑えなかったというのが正直なところ。

でも、この世界に少しでも興味があるなら是非読書されることをお勧めする。思い切って飛び込んでしまえば、あとはラストまでノンストップ。どこで小休止しようか悩みながらも、ページを繰る手が止まらないはずだ。そして、1500ページ超の大作を読了した記憶は、数ある読書履歴に強烈に刻み込まれるだろう。
2 Comments
Cozy09.12.2008 URL [edit] 

面白かったようで何よりです。

表紙って横に並べると、Yrrっぽいイメージが見えるんですねー。

がる@管理人09.16.2008 URL [edit] 

装丁もですが、帯もかなり凝ってますよねー
ちなみに、原題を直訳すると『群れ』
邦題の方が未知っぽくて(?)合ってるのかも。

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1 Trackbacks
Karma06.05.2010

シュールな光景だった。赤いボートのすぐ上に、巨大なザトウクジラの体がまっすぐ空に向かってそそり立っていたのだ。重力を忘れてしまう、...

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