『シャンタラム』/グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ 

01 14, 2012
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シャンタラム〈上〉
シャンタラム〈中〉
シャンタラム〈下〉
グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
新潮社 2011-10-28
自己評価:秀作

男は武装強盗で20年の懲役刑に服していた。だが白昼に脱獄し、オーストラリアからインドのボンベイへと逃亡。スラムに潜伏し、無資格で住民の診療に当たる。やがて“リン・シャンタラム”と名づけられた彼のまえに現れるのは奴隷市場、臓器銀行、血の組織“サプナ”。数奇な体験をもとに綴り、全世界のバックパッカーとハリウッド・セレブを虜にした大著。
国を追われた犯罪者が、異国の地で血と汗にまみれながら、己のアイデンティティーを見出そうとする壮大なドラマ。三巻通して原色の世界が拡がっている。オブラートに包んだ装飾は一切なし。ストレートに直視して描かれるヴィヴィッドなドラマのなんと鮮やかなことか。

インドという国の善し悪しを評価するのではなく、見たままを読み手に伝えようとする作者の粘りの筆致が印象的。ひとつの着眼点に対して複数の表現方法を積み重ね、物事の残酷さを、人の心の複雑さを読者に植え付けていくパターンにハマり、一気に奥へと引き込まれた。

登場人物は、国籍・人種を問わずとにかく多い。造形はわかりやすく、好き嫌いに関わらずそれぞれ魅力的。また、カーデル・ハーンの“哲学”やカーラの“分析眼”など、目の覚めるような的確な描写で綴っていくシーンも読みドコロのひとつ。

ただ、自伝的小説でなければ途中で退屈していただろう。小説としての起承転結が弱く、ボンベイで体験したエピソードの重ねづけに食傷することもしばしば。これが実際に起こったことなんだと思えば、オチのないエピソードも興味深く読めるというもの。

上巻は“滞在記”、中間は“逃亡記”、そして下巻になって“小説”としての面白さを実感できたような気がする。 長い物語を通して浮かび上がってきたのは、宿命、絆──そして、前へ進むには信じること。シンプルで力強いメッセージが心に響く秀作。
2 Comments
Cozy01.14.2012 URL [edit] 

作者がインドを想像して書いたとしても、説得力がなかったと思います。
体験談ってところで、普通のフィクションとはちがったパワーを秘めているんだろうなと思います。

最近、中国人が広島で脱獄したものの、すぐに捕まったニュースを見たときに、やっぱりこの作者はただものではないなと思いました(笑)

がる@管理人01.15.2012 URL [edit] 

体験談なのでしょうが、主人公が徐々にかっこよくなっていく展開は、
巧いのかずるいのか評価に悩むところではありました。
でもカーデル・ハーンとかプラブとか、実際にいそうですもんねー

脱走犯が「戻りたい」って言ったそうで、
やっぱり中国人にとって日本の刑務所って快適なのかなーって思いました(笑

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Karma01.14.2012

「宇宙はわれわれの知るとおり、そしてわれわれが学びうるすべての事実が示すとおり、そのはじまりから常により複雑な状態へと変化しつづけてきた。なぜならそれが宇宙の本質だからだ。"複雑さへ向かう傾向"...

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