『湿地』/アーナルデュル・インドリダソン

06 30, 2012
湿地
アーナルデュル・インドリダソン
東京創元社 2012-06-09
自己評価:

北の湿地の建物で老人の死体が発見された。現場に残された謎のメッセージ。被害者の隠された過去。レイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルがたどり着いた衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相とは。いま最も注目される北欧の巨人、日本上陸。

  • 第一位『ミステリが読みたい!』(2013)
  • 第二位『週刊文春ミステリーベスト10』(2012)
  • 第四位『このミステリーがすごい!』(2013)
アイスランド発の警察ミステリ。社会問題、人間ドラマ、仄暗さという、北欧ミステリの特徴に加え、アイスランド・ミステリの色彩が色濃く出ている。人口30万人足らずの小さな島国では、派手な事件や奇怪な難事件は発生しにくい。日常生活の延長線上にある小さな闇、そこにはまりこんでしまった犯罪者の心理に迫る力強い筆致から目が離せなかった。

章割りが効果的で長さもちょうどいい。地味な展開ながらも無駄なく進んで行くので、退屈さを感じることはない。地の文のシンプルさは会話がちゃんと補っているので、全体的にコンパクトでも読み手に訴えるだけの濃さは十分。主人公も捜査チームも、パッと見はよくあるキャラだが、読めば読むほど個性が際立ってくる。ストーリーテリングの巧さに隠れてしまいがちだが、実は人物造形の巧みな作家ではないのかな。

伏線を回収するタイプではないので、謎解きとしては物足りないだろう。パズルのピースは少ないが、ミスリード的な仕掛けもないので犯人に辿り着くのは容易。ここだけ見ると二時間サスペンスレベル。だがアイスランド・ミステリがじわじわと染み込んでくるのが本作品の特質で、終わってみれば、社会問題と人間ドラマが生み出す悲劇が根こそぎさらって行ったというインパクトが強い。伏線は確かにあった、この結末のための小さなドラマがあちこちに。ラスト一行がキレイにハマったなあ。

このページ数を意識して維持してくれるというのは読者にとってありがたい。バランスのいい作家だと思う。そしていいシリーズ。次作だけじゃなく、最初から順に訳してほしいです。
6 Comments
Cozy07.02.2012 URL [edit] 

高評価ですね。
巷の評判もいいので、気になってます。

アイスランドって、島国&過酷な自然ってところが、アン・クリーヴスっぽい、田舎の閉塞感に満ちた話なのかしらと勝手に想像してます。

がる@管理人07.02.2012 URL [edit] 

島国&過酷な自然って部分は、ざっくりとした輪郭の一部かな。

いろんな意味で、アイスランドを体感できる内容になってますが、
小さなコミュニティ内の話というわけでもなく、社会的側面が強いです。

ネタの束ね方とか展開の繋ぎなど、地味だけど重要な部分に作者のスマートさを感じました。

Cozy08.13.2012 URL [edit] 

勝手なイメージですが、がるさんの好きそうな警察小説かなという印象を受けました。

僕のイメージは、アイスランドの孤島色が強いのかなといったところでしたが、イメージとは違って、普通の警察小説なんですね。
一つの殺人事件から、地味に犯人にたどり着くプロセスは、派手ではないけど、アイスランドの社会問題も絡めつつ、巧いなと感じました。

がる@管理人08.14.2012 URL [edit] 

お察しの通り、ストライクゾーンのど真ん中です(笑

言い方は変ですが、非常にクリーンな警察小説っていう印象を受けました。
社会問題の絡ませ方は確かに巧いです。
これは欧州警察ミステリの特徴でもあるのかな。

ヴァランダー・シリーズ、『湿地』『深い疵』と、いずれも似通った作品に見えるんですが、実はそれぞれ違った個性があるんですよね。
これだから警察ミステリはやめられません(笑

  仁08.31.2012 URL [edit] 

 面白かったです。『深い疵』より先に読んどけば残念。少しヴァランダーに似てなくもないけど{来月に新作がでるとか}苗字での探索に少し小さな世界を感じましたけど、最後の一行は映像的締めかたですね。

がる@管理人09.01.2012 URL [edit] 

そうですね、順番としては『湿地』→『深い疵』だと思います。

意図的にコンパクトにまとめてあるのが、
ヴァランダー・シリーズよりは少し読みやすいかもしれませんね。
この程度のボリュームなので、最後の一行は重要だと思いますが、
締めとしては文句なしでした。

Leave a comment
管理者にだけ表示を許可する
OK?
1 Trackbacks
Karma08.14.2012

「この話はすべてが広大な北の湿地のようなものだ」 『湿地』(アーナルデュル・インドリダソン) pp.222 雨交じりの風が吹く、十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、...

Top
CATEGORY
TAG CLOUD
COMMENTS
TRACKBACKS
TRACKBACK PEOPLE
LINKS