『血の探求』/エレン・ウルマン

01 26, 2014
血の探求
エレン・ウルマン
東京創元社 2014-01-10
自己評価:

休職中の大学教授である私はオフィスを借りた。ある日、隣室のドアから精神分析のセッションが聞こえてきた。患者は若い女性で、養子によるアイデンティティの欠落に苦しんでいた。私は息を殺して患者の話に耳を傾け続け、やがてふたりに気取られないようにしながら母親捜しの手伝いを始める。彼女はなぜ養子に出されたのか。“血の探求”の驚くべき結果とは。本文のほとんどが盗み聞きで構成された、異色かつ予測不可能な傑作ミステリ。
ハード面とソフト面で楽しめる異質な作品。長めのアプローチと濃い描写で序盤は悶絶したが、気付けばだだハマり。

まずハード。ほぼ会話のみで進行するが、かぎ括弧はなく、地の分に埋め込まれた形になっている。主要キャラは三人で、うち二人は名無し。舞台はビルの隣り合った二室のみで移動はなし。語りは一人称だが、言い回しの妙で三人称であるかのような錯覚を起こす。

この盗み聞きの中に作中作のような物語が登場するのだが、それも含めて、謎めいたドラマ、謎めいた登場人物が織り成すソフト面が、インパクトのある作品へと昇華させていく。出自にまつわるストーリーが重い。このネタは昨年から何度か経験してるが、それでも読むたびに違う重みがあって気持ちがしんどくなる。掘ってみたら根っこは想像以上に巨大で、しかもまだ奥にも伸びていて真実はとんでもなかった。…という患者の血の物語がメインになるのかもしれないが、盗み聞きというフレームに立ち返ると、大学教授の「私」の異様さに改めて気付かされるという作りに感心してしまう。

殺人などのお約束要素は一切ないのだが、広義のミステリと言っても差し支えないだろう。謎という観点から見れば、謎だらけの人物によって語られる謎だらけのお話ではある。このラストも好きです。“探求”はほどほどに、と作者が読者をたしなめているような感覚。評価は、型破り作品の希少価値(?)を鑑みて甘めの星よっつ。
2 Comments
Cozy08.10.2014 URL [edit] 

がるさんの上半期1位ということで、読んでみました。

正直、最初の100ページくらいは、途中で投げ出しそうになってしまいましたが、意外や意外、第二次世界大戦を題材にした真面目な話になってからは、緊張感があって、とても面白かった。

そして、それを思うと、主人公の設定の危うさだったり、盗み聞きをしているシチュエーションだったりが、とっても、しっくりくるんですよね。

がる@管理人08.11.2014 URL [edit] 

このお話は高評価というレビューを参考にすべきかなと思いました。
じゃないと、序盤で挫折しそうで。

盗み聞きっていう設定があっての真面目な展開に意外性があるわけで、
ありそでなさそな構成の妙にヤラれました。

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Karmaなミステリ読書ブログ08.10.2014

死んだ人たちの埋葬が終わってもいないのに、こんなに決意と勇気にあふれているなんてどういう人たちなんだろうって。この人たちにこれほどまでの強さを、希望をあたえているのはなんなだろう? そして、わたしの頬を涙が伝った。今度の涙は喜びの涙ではなくて、後悔と悲嘆と切望の涙だった。 『血の探求』(エレン・ウルマン) pp.305 1974年の晩夏。休職中の大学教授である“私”は、サンフ...

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