『ザ・カルテル』/ドン・ウィンズロウ

06 12, 2016
ザ・カルテル (上)
ザ・カルテル (下)
ドン・ウィンズロウ
KADOKAWA/角川書店 2016-04-23
自己評価:

麻薬王アダン・バレーラが脱獄し、身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金が賭けられた。玉座に返り咲いた麻薬王は、血なまぐさい抗争を続けるカルテルをまとめあげるべく動きはじめる。一方、アメリカもバレーラを徹底撲滅すべく精鋭部隊を送り込み、壮絶な闘いの幕が上がる。圧倒的な怒りの熱量で、読む者を容赦なく打ちのめす。21世紀クライム・サーガの最高傑作。
  • 第二位『このミステリーがすごい!』(2017)
  • 第四位『ミステリが読みたい!』(2017)
  • 第四位『週刊文春ミステリーベスト10』(2016)
『犬の力』の続編。満点評価の決め手はラスト。ちょい甘めの評価です。

前作では、麻薬捜査官そしてカルテルの跡取りとしてのふたりの、良くも悪くも成長の話でもあったのだが、続編である本作では、己の立場を極めた上での個人的な闘いに終始している。深みのある人間ドラマを比べると前作より劣るが、全体的なスケールはより大きくなった。それは、ふたりの背負う重みが国家レベルになってしまったからだろう。

上巻は『犬の力』の続編という色合いが濃い。スピード感はあるのだが、じわじわと侵食しているような感覚がもどかしくもあり、不気味でもあり。そして気がつくのだ、ウィンズロウの怒りの底なし沼にずぶずぶに浸かっていることを。下巻に入り、血で血を洗う麻薬戦争の地獄絵図は凄惨を極める。ノンフィクションかと見紛うほどの迫力ある描写に息苦しくなる。裏切り、買収、報復の連鎖は終わることなく、途方もない死者の数に比例して徐々に疲労感は蓄積されていくのだが、それでも最後まで衰えないのはやり場のない怒りの気持ち。国家レベルの悲劇に怒りが止まらない。「憎しみは憎しみさえも打ち負かす」の一言に射抜かれ、野生の少年の最後の記事は、一旦本を閉じないと先へ進めないほど心に突き刺さった。

終盤のエンタメ寄りの展開がやや気になったが、それでも今年のベスト候補なのは間違いないだろう。結末には納得してないが、一番しっくりくるラストはやっぱりこういうのかな。麻薬カルテル絡みの小説は当分読めないわ、何を読んでも本作品を超えられないだろうから。ウィンズロウを超えるのはウィンズロウだけ。
2 Comments
Cozy05.19.2017 URL [edit] 

本作は容赦ない作品だから、物語の中心にいて、重要な登場人物であってもすぐに殺されてしまうので、緊迫感のある物語となるようにバランスを取るのが、難しい作品だったかなと思いました。
その点は、『熊と踊れ』と同様に、作品自体がノンフィクションっぽい、フィクションであること、あとはドン・ウィンズロウの麻薬戦争を糾弾する想いが、本作のバランスをとるために必要な前提だったのかなと。

登場人物も多いし、視点の切り替わりも多いし、何年間もの大河ドラマだったので、あれやこれやと話が転々として、若干、ダルさも感じましたが、最後のエンタメ的な展開があった方が、僕は良かったと思います。

がる@管理人05.20.2017 URL [edit] 

お。読みましたか。

「犬の力」を受けてというか、それを超えるために、よりフィクションっぽい仕上がりになったのかなと思います。

今思うと、すごい労力だったでしょうねー。
誰を生かして誰を殺すって、どういう基準で書いてるんだろ? 素朴な疑問(笑

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Karmaなミステリ読書ブログ05.23.2017

愛はすべてを打ち負かすという。 それは間違いだ、とケラーは思う。 すべてを打ち負かすのは、"憎しみ"だ。 憎しみは憎しみさえも打ち負かす。 『ザ・カルテル(下)』(ドン・ウィンズロウ) pp.393 麻薬王アダン・バレーラが脱獄した。30年にわたる血と暴力の果てにもぎとった静寂も束の間、身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金が賭けられた。玉座に返り咲いた...

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