『苦悩する男』/ヘニング・マンケル
10 17, 2020
苦悩する男 上 (創元推理文庫) 苦悩する男 下 (創元推理文庫) ヘニング・マンケル 創元推理文庫 2020-8-31 自己評価: ![]() |
刑事クルト・ヴァランダー59歳。同じ刑事の道を歩む娘のリンダに子どもが生まれた。リンダのパートナー、ハンスの父親のホーカンは退役した海軍司令官、母親のルイースは元教師だが、突然ホーカンが姿を消してしまう。家族は原因に心当たりはないというが、ヴァランダーは以前パーティーで会ったホーカンの様子にどこか違和感を覚えていた。北欧ミステリの金字塔シリーズ最終巻。
意味深なプロローグから始まるストーリーはひたすらゆっくり進む。シリーズ最終章という先入観のせいか、刑事ヴァランダーの人となりをなぞるように展開してる気がして、序盤から退屈してしまった。休職中を利用しての個人的な事件追跡というスタイルは、警察ミステリというよりは、私立探偵モノの色合いが濃い。その割に、事件の核心はスウェーデンの国防問題と繋がると言う展開にバランスの悪さも感じてしまって、困惑する読書となった。
元妻が出てきて元恋人が訪ねてきて、人生を振り返ることになるのだが、ここにはシリーズの魅力である深い人生の味わい描かれ、それが退場するヴァランダーの姿と相まって何とも切実。最終巻はヴァランダーの退場のための物語なんだと、悲しいけどそう割り切って読んだ方が楽しめるんだと、下巻になってからシフトチェンジ。
謎解きは小粒で、事件の着地はあっさりし過ぎ。そして物語のラストも煙に巻かれたようで、決して望んだ幕切れではなかったけれど、シリーズを全部読めた満足感は格別。ありがとう、クルト・ヴァランダー。あなたはいつまでも私のヒーローです。